アララギ第4巻第10号 「信濃号」
心 猿
東の空白〱(繰り返し)にわが骸思に疲れたゞよこたはる
生きのまゝ死にたるむくろ妻子らははやもさめよとひた促せり
こらが手を巻きの八須ば朝風によな〱(繰り返し)揺らぐ乏しかりけり
八千草の花のすがしき妹らを率(ゐ)いて秋をあそばんいや年のはに
春日述懐歌並短歌
湯 禿 山
すがの根の。永きはる日の。夢ゆさむる。吾窓の外に。ちる花の。靜けき心。こしかたを。かへらへみれば。あらたまの。年の四十まり。つかのまに。過ぎてをきつれ。指をれば。おぼほしきかも。はらからと。睦みし友は。うつそみの。世にしもあらず。たらちねの。乳の香うせずと。さげすみし。若かるやから。とぶ鳥の。天かけるかに。時えしを。ほこらひにけり。見の聞きの。このいぶせきに。霜自物。こり結ぼるる。わが心。あないた〱(繰り返し)し。たくふすま。和むすべこそ。くすし(医師)はも。病こそみれ。このなやみ。何のすべもていかさまに。いやしやはする。しかすかに。かゝらん時の。なくさもる。力のともと。うましさけ。すゝらひをせば。あなたふと。うれたき眉も。おのつから。ひらけきにけり。むすぼるゝ。むねも和みぬ。むね和み。まゆこそ開け。いやさらに。つむりまはせば。大君の。たみくさ此身。國に負ふ。こゝたのめぐみ。いさゝかも。むくいまつらず。いたづらに。命全けく。しなさかる。越えてをきつれ。かくてわが。殘るむくろを。うつそみに。いかにかすべき。そこもへば。みもたなしらず。やき太刀の。利こゝろふるひ。たゝまくおもほゆ。
短 歌
うまし酒うちすゝる束の間は和む春日のうらやすきかも
あらたまの年の四十まりつゝがなくおろかしむくろ經はしつれど。
☆☆☆
この「信濃号」。信州の人の原稿を収めたため、信濃人の禿山さん登場多し。
「心猿」→心の欲の制し難いことを、猿がわめき騒ぐのにたとえて言う語。
そして巻末の消息欄より…(柿の山人=島木赤彦によるもの)
●小生は明日出發伊那木曾に遊び申すべく原田泰人(八十戸君)も同行に御座候禿山比良(?)夫二君に逢ひ得べきを樂しみ候。木曾の紅葉と清流とを想ひ愉快に存じ候。
(楽しそう)
●アラゝギ雑誌代金を怠り居る人は御納め被下度會計の方立たねば「アラゝギ」は死に可申候。
(そして同人誌の編集も大変そう)
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