戸邉優美「女講中の民俗誌―牡鹿半島における女性同士のつながり」

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昨年、新聞広告か何かで刊行案内を見て気になっていた本でした。すぐに石巻市図書館に入ったのですが、しばらく禁帯出で借りられず、一度閲覧しただけでした。閲覧ではあまりじっくり読めないですからその時は参考までにパラパラと。

何しろ高い本なので、読みたいのだけれど買うほどでは…と思って諦めていたら、最近貸出図書として払い下げになっていました。やった!

現在石巻市になっている牡鹿半島の、女講中という女同士の集まりを研究とした民俗学の本です。


著者の博士論文を元に書籍化されたものですが、地元の話というだけでなく、女性からみた民俗学という視点でも大変興味深く読むことができました。重量感のある本なので、読めるかな?と思ったけれど、逆にグングンと読めてしまいました。

著者も女性の研究者。女性の生活や風俗、コミュニティを研究する上で、女性研究者の視点が必要だというところからスタート。確かに男の人には話せないようなこともあるでしょう。

交通の便が悪い半島の漁村で暮らしていく上での「集まり」の一つであった「講」。牡鹿半島には、半島のギザギザの引っ込んだ部分にたくさんの浜があり、それぞれの浜ごとに集落があり、それぞれのしきたりがあります。男性中心の契約構の話は聞いたことがありましたが、この本はその妻たちの集まり「女講中」を研究しています。

男性は海に出て留守がちの浜で、協力して暮らしていくための女講中。その役割というよりは、時代の変遷とともに、暮らし、仕事、教育、結婚、女性の立場などが変遷していくにつれ、震災以前にすでにほとんどが解散しています。今や失われてしまった風習を記録するという意義もあるでしょうが、女性社会を研究するという点で、面白く読ませていただきました。地元本という意味もあったけれど、読んでよかった。女性社会についての考察は、やっぱり女性の目線が必要ですね。

震災で加速した人口流出による過疎化、道路工事や防潮堤工事による浜の様子の激変。そもそもこれからも浜の生活が続けられるのか、なんとも難しい時代になってます。ノスタルジーだけでは如何ともし難いのが現実であります。

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