夏葉社:小山清「風の便り」〜小さな絵も

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風の便り夏葉社さんの新刊が届きました。太宰治に師事した小山清の随筆「風の便り」です。久しぶりの「文学」の香りがします。

活版印刷によるタイトルの文字に、「さよならのあとで」でも挿絵を担当された高橋和枝さんの絵が添えられた、シンプルで素敵な表紙です。


そしてあいかわらず文学音痴の私は、小山清は初めてございました。これは私小説…ということでしょうか。題材は身の回りに起きたこと。

生活が苦しかった頃、炭鉱で働いていた頃、刑務所(!)に入っていた頃のこと…私がこうやって書くとなにか悲壮な内容なのかと思われそうですが、それが不思議と語り口が穏やかなのです。読んでいるこちらも穏やかな気持ちになります。

「動物園にて」という話もありました。吉祥寺や練馬の関町に住んでいたことがあるそうですから、この小さな動物園というのは井の頭自然文化園でしょうか。小動物園で大きなものは熊ぐらいしかいない…とありましたから、ゾウのはな子が来る前だったんだろうな。猿山のサルはアカゲザルですし。人間の観察あり、動物の観察あり。その観察眼が人間に対しても動物に対しても同じ…というところにおかしみアリ。

最後の二編は「美穂によせて」と「再び美穂によせて」。お嬢さんが生まれてからのお話です。子育て奮闘中の島田さんのこと(島田潤一郎「父と子の絆」)も思い浮かべながら読みました。

今ではイクメンも珍しくないけれど、当時としてはこんなに子育てに関心のあるお父さん、珍しかったのではないかなぁ。お子さんが産まれて、とってもうれしい気持ちが素直に文になっていて、ほんわかした気持ちになります。

しかもこの本、11編の短編の合間に5枚の小さな絵が貼り込まれています。高橋和枝さんの絵です。印刷されたカラーの小さな絵画が切手のように貼られていて、とてもかわいい。文を読み進めてページをめくるうちに絵が貼られたページが出てくると、そのたびに「わぁっ」とうれしくなります。

夏葉社さんの「何度も、読み返される本を」スローガンのとおり、折にふれて開き、読み返したくなりそうな本でした。

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このページは、raizoが2021年3月28日に書いたブログ記事です。

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