著者の加藤先生には、石巻でお会いしたことがありまして、鮎川をフィールドに鯨もテーマにされていることは知っていましたから、どんな本になっているのか楽しみにして読み始めました。
クジラとペンギンというのは、遠洋捕鯨の基地でもあった鮎川には、家にペンギンのはく製が飾ってあるお宅が多いというエピソードからきています。捕鯨が盛んだった頃は、たくさんのペンギンが生きたまま捕鯨船に乗せられて日本に渡ってきており(生存率は悪かったらしですが…)、それが動物園や水族館にも寄付されていたんですよ。あ、これは余談でした。
で、読み始めてみますと、思いのほか「民俗誌」でした。民俗学というと柳田邦男の世界がイメージされるけれど、昭和の時代もすでに過去のもの。鮎川というまちの文化が捕鯨とどのように関わってきたのか、たくさんの資料と、先生やゼミの学生さんたちによる、たくさんの鮎川の人たちからの聞き書きからできた本でした。
牡鹿半島では震災の前から人口が減っていましたから、東日本大震災がその決定打になってしまいました。若い人たちは、便利なところへ移り住んでいきます。高齢化も進み、子どもの数も減っています。鮎川の黄金時代は4〜50年前の話であり、ほおっておくとあと何年かしたらその頃のこともわからなくなってしまう。
通常であれば、過去の痕跡は徐々に失われていくわけですが、鮎川の場合は津波で多くのものが一瞬にして失われ、さらにコンクリの復興工事によってさらに風景が一変し、ダメ押しされました。
この大きな喪失の中で、まだ過去を語れる方達がいらっしゃるうちに調査をし、くじらと共にあったこれまでの鮎川のくらしの記録が、誰もが手に取ることの出来る本(研究論文ではなく)として出版されたことに大変感銘をうけました。民俗誌とはなんぞやを知る思い。
どうして牡鹿半島の先端のまちにクジラのまちができたのか。そこでどんな暮らしがあったのか。黄金時代のにぎわいや人びとのくらしを思い浮かべると、鮎川の人たちがなんだかうらやましくも感じました。加藤先生とゼミのみなさんも、そんな鮎川の魅力を感じたからこそ、この本の出版までたどりついたのでしょう。
商業捕鯨も再開され、鮎川も多いに沸きました。復興工事も進んで、ビジターセンターやホエールタウンおしかなどの観光施設もオープンしました。まだ訪問したことがないので、加藤先生の監修された展示を、近いうちにぜひ見学したいと思っています。
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