早田リツ子『第一藝文社をさがして』:小さな情報がつながっていく喜び

| コメント(0)

第一藝文社をさがして毎度おなじみ夏葉社さんから、一度に2冊新刊が出版されました。そのうちの1冊が、早田リツ子『第一藝文社をさがして』です。

発売前から、装幀がかなり凝っていると聞いていましたが、実物は、本体が森田たまを連想させるような柄の布貼りで、半透明のグラシン紙がカバーになっているという造り。私はそのカバーを汚してしまいそうなので、いつもと違ってカバーを外して読みました。


カバーをはずして滋賀県にお住まいの著者の早川さん。戦前に滋賀で出版をしていた第一藝文社について、ひとりで出版を行っていた中塚道祐さんの遺族を訪ね、さらに図書館や古書をあたってコツコツと調べたことでこの本が生まれました。


そもそも第一藝文社は全く知らない出版社でした…が、元来評伝や出版人モノは私の好物分野。夏葉社さんの本としては、これまでにない分野ですが、個人的にはとても楽しみにしていました。

主人公である中塚道祐さん、そして第一藝文社の歩みも興味深いものですが、なにより早川さんが資料や情報を集めてたくさんのことがわかっていく過程が、ミステリー(いやそれほどの大それた謎ではないのですが)のようでもありました。

ご遺族からお話を聞き、資料をお借りすることに加え、図書館のリファレンスを利用したり、現存する第一藝文社の出版物には、各地の図書館、国会図書館、古書店から購入するなどしてできるかぎり目を通したり。そうやってできる限りの資料を集め、そこからみつかる情報の断片をつなぎ合わせることで、わからなかったことが少しずつわかってくる。

中塚道祐さんの交友関係、本の著者、本の奥付からわかること、さらに中塚さんの読んだ短歌からわかることまで…。小さな情報がつながっていくことに、ある種の達成感や喜びのようなものがあり、それを早川さんと共有しているような気持ちになりました。

こういった方法をとることができるのは、早川さんがこれまで長く研究活動を行ってきた経験と積み重ねによるものなのではないかと思います。

昨今は、ネットでちゃちゃっと調べ、それが嘘か本当か、真偽のほども定かではない情報がそのまま使われてしまうことも多々ありますが、こうやって資料に丹念に当たっていくことの大切さをあらためて感じました。

早川さん、ありがとうございました。

コメントする

アーカイブ

子規の一句

花一つ一つ虻もつ葵かな

くものす洞広告

このブログ記事について

このページは、raizoが2022年1月26日に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「今日のアップル:AirPods、片耳しか聞えなくなる。」です。

次のブログ記事は「今日のうちのアップル:OSアップデート祭り。」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。