夏葉社さんの本が一度に2冊刊行されました。そのうちの1冊が『本屋で待つ』。広島県の山あい、岡山県との県境に近いあたりにある庄原市東城というところで本屋さんをやっている佐藤さんのお話です。
表紙のイラスト、実際のお店の様子が描かれていますが、子どもたちの絵もとってもかわいいですねぇ。広島カープの野球帽がナイス!絵は漫画家の、ひうち棚さん。文中にも巻末でもイラストが登場します。
(以下ネタバレあり)
著者の佐藤さんが営む「ウィー東城店」は、明治の中頃に佐藤さんの曽祖父が始めた「佐藤商店」が始まりだそうです。(最初はどんなご商売だったのか…気になります。)
その佐藤さん、学生の頃はいろいろあったけれど、家業を継いで「ウィー東城店」をまかされることになります。本が先代の頃ほど売れない時代に突入し、昨今の独立系本屋さんとは全く違う、地元密着型のお店をいかにして継続してきたのか…と書くと、経済本のようなイメージですが全然そんなことはありません。
田舎の本屋の存在意義を探りながら、自らも考え、お客様に教えられ、スタッフに教えられ、多くの人に信頼され…いろんなことの積み重ねで今があるのだけれど、ガリガリの上昇志向のような尖った感じもなく、でも経営者として経営のことはしっかり考えつつ、お店のことは自然体で取り組まれている印象です。
旧東城町は、市町村合併ののちに広島県庄原市となり、現在市の人口は3万人ちょっと。合併前の旧東城町の人口は約7,000人。現在はもう少し減っていると思われます。モータリゼーションで、歩く人が少ないのも全国(地方です)はどこも同じ。高齢者が多いのも同じです。ここに出てくる話をそのまま実行すればうまくいく…というものではなく、やっぱりお客様に喜んでもらうことがまず大切なのかなぁ…。人口の少ない地域で小売店を経営することについても考えさせられました。
後半は学校に行けなくなった高校生たちを、お店で預かる話になります。やがて彼らは正社員になったり、新しい道を見つける人もでてきます。こういったことも「ウィー東城店」がこれまで地域の人たちの信頼を得てきたからこそ。そしてなにより(地方にあって)若い人が働いてくれるってうれしいですよね。
もちろん「ウィー東城店」すごいな、いいな…と思いましたけれど、本のエピローグまで来たら、出てきた若い人たち、これからもがんばれーっという気持ちになりました。読み終わってしばらくして、その子達のことを考えたら、なんだかジーンとしてきました。
というわけで、田舎の本屋さんの話だよ…とは一言で言い切れない、いろんなものが詰まったお話でした。
この本は佐藤さんのひとり語りのかたちで話が進みます。読みながら、どうもこれは島田さんの本に語り口が似ているな…と思っていたのですが、あとがきを読んで納得。著者にお二人の名前が書いてあるのは、佐藤さんが話した内容を、島田さんが文章にまとめたものだったのですね。読み終わってやっと合点が行きました。連名になっているのだから最初に気付けよ!ってところですね。
これまでの島田さんの「あしたから出版社」「90年代の若者たち」「古くてあたらしい仕事」「父と子の絆」、山下賢二「ガケ書房の頃」、三品輝起「すべての雑貨」、堀部篤史「90年代のこと 僕の修行時代」…と連なる「生き方シリーズ」(勝手に言ってます)に1冊加わったというところでしょうか。
若い人たちにもぜひ読んでもらいたいです。
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