『上林暁 傑作小説集 孤独先生』山本善行撰(夏葉社):井の頭池の崖地を想う。

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孤独先生短編集ということもあり、一気に読むのももったいなくて、買ってから毎日少しずつ読んで読了。阿部海太さんの装画、銀の箔押しの文字、ピシっとしたクラシックな背表紙…サイズは新書くらいの大きさなのですが、今回も装幀が素敵です。


この本は、京都の古書店主、山本善行さんの撰。善行さんの撰集ならば間違いないはずと読み始めます。本は小振りながら400頁もあって、厚みしっかりなのですが、それは本文の文字が大きめだから。中高年にやさしく、読みやすい。それだけでちょっと楽しい気分です。

善行さん言うところの「渋い」小説ばかりなのですが、私が特に良かったのは「景色」と「清福」。「景色」は、目の前にその場面の情景がぱーっと拡がる爽快な読後感あり、これは『星を撒いた街』に近いものがありました。

「清福」では、主人公が知りあった画家の家を訪ねます。その画家の家が、「井の頭の池に面した崖の上にある離れの一室で、戦争の際近くに落ちた爆弾の振動で傾きかかっているのが、桜の木に支えられて」いると。主人公が池の回りを歩いてその家を探すのだけれど、池の周りを歩き、中ノ橋を渡り、水面にボートが漕ぎ群れているのを眺め、最後は道とも思えないような草むらの崖を登っていくのですが、私も数年間井の頭池の周りを端から端まで歩いて通勤していたので、その情景が浮かび、ここに出てくる崖はあのあたりではないだろうか?と想像しながら読み進みました。あるんですよね、池の西側に、ちょっと草ぼうぼうの斜面になっていて上に家が並んでいるあたりが。これは読んでいて楽しかった。

こんな具合に、選りすぐりの11編の短編を読み終えて、あー終わっちゃったという感じ。折りに触れてまた読み返したくなる本というのはこういう本のことですねぇ。

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このページは、raizoが2023年5月14日に書いたブログ記事です。

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