このたびの夏葉社さんの新刊は、作家の庄野潤三さんの奥様である庄野千寿子さんが、長女の夏子さんにあてたたくさんの手紙のなかから編まれた書簡集です。
これまで全く触れてこなかった庄野作品に、夏葉社さんの『親子の時間』で初めて触れ、その後は小説を中心に古本などで過去の著作を集め、折りに触れ読んできました。庄野作品のファンのかたはみなそうだと思いますが、庄野家の皆さんが親戚の家族のような親しみを感じています。
庄野家の子どもたちは、うれしいことがあったらその日のうちに、喜びが減らぬうちにお礼の手紙を書きなさい…と言われていたそうです。小説の中には、よく夏子さんの手紙が登場していましたが、そういえば千寿子さんの手紙はあまり読んだ事がなかったかもしれない、どんなお手紙なのだろう…と楽しみに読み始めました。
手紙は毎回、お母さんの千寿子さんの夏子さんへの感謝の気持ちが、とにかくもりもりに盛り込まれています。これを読む夏子さん、本当にうれしかっただろうし、読んでいる私もうれしい。感謝の気持ち、うれしい、たのしい、おいしい…ということばが並ぶのは、庄野潤三さんの小説と同じですね。幸福感が心地よく響くのです。たま〜に愚痴を言ったことを謝るところがでてくるのは、やっぱりそういうことあるよね…とちょっと安心したりもしました。
そしてなによりその夏子さんへの文章から、夏子さんのご実家への献身ぶりや働きぶりが手に取るようにうかがえて、同じく長女である自分のポンコツぶりが情けなくなってきました。夏子さん、ほんとによく働いていらっしゃる〜。
タイトルにもなっている、おいしそうな夏子さん手づくりのアップルパイ、たくさんのお料理、滋味深いチャボの卵、ご両親の大好きなビール、折りに触れたプレゼント…届けられた宅配便の箱や、夏子さんが山の上の家に持参するバッグの中から取り出される品々…千寿子さんほんとうにうれしそう。もう電話1本(今はLINEで一言か?)で済む時代にはなっていたけれど、こうやって手紙が残っていることで、後から何度も読むことができるし、こうやって私たちも読ませていただいているわけですねぇ。
お手紙の文から、庄野潤三さんの本が出版されたり増刷されるたび、千津子さんがたいへん喜んでいる様子が伝わってきました。夏葉社の島田さんのあとがきで、千寿子さんが、ご主人の小説の糧になりそうなことを演出家のように生活の中に取り入れていたことも書かれていましたが、そればかりでなく、夏子さんをはじめとしたお子さん達、お孫さん達、さらにひ孫さんまで…庄野潤三さんの小説が、庄野家のみなさんによって編み出されたものであったことをあらためて実感しました。
未読の本も積読の山の中にまだ数冊入っているので、この夏は久しぶりに庄野家の物語に浸ろうと思います。そして実家の草取りももっとがんばらないとなぁ。
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