どうしても、比較的理系な本や人文・ノンフィクション系に偏ってしまう私の読書傾向を、文学的なところに引き戻してくれるのが、このところの私にとっての「夏葉社本の役割」になっているように思います。
庄野潤三さんの小説は、庄野さん自身のご家庭をモデルとした…というか自身のご家庭のことを描いたものです。大きなドラマがあるわけではなく、どこにでもあるような、普通の家族の日々が記録のように綴られているのですが、そのなんとも自然体な文章が、静かに心にしみるようです。特に子供たちの会話が良いですね。庄野潤三さん自身の子供たちへの愛情と、その親としての眼差しが感じられるものでした。(裏表紙の「松のたんこぶ」の謎も解けます)
特に、この本の一番最後の「山の上に憩いあり」というお話が心に残りました。一家と河上徹太郎との、長年の交流の記録なのですが、河上さんがこの一家との交流を楽しみにされていたのは、ひとえにこのご家族の仲の良さ、素敵なご家族ぶりがゆえだったのではないでしょうか。読んでいるこちらもほほ笑ましい気持ちになり、そして長年の交流が途絶えることになるくだりでは、なんともさみしい気持ちになりました。
実は最近マイブーム(といっても読書傾向として…ですが)な「狩猟」が出てくるところも気に入ったポイントでもあります。一昔前は柿生あたりでも猟をしていたのですね。(いまやもうすっかりベッドタウンです。)鉄砲をもった河上さんと猟犬のワンちゃんを先頭に、この家族が多摩丘陵の山道を歩く様子を思い浮かべながら読みました。
この一家の他のお話、そして一家がその後どうなったのか…。そんな興味も湧いてきて、庄野潤三の他の作品も、さっそく読んでみたくなりました。まさに庄野潤三入門書ですね。もちろん編者の岡崎武志さんの後書きも必読であります。
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