タイトルの通り、白神山地の青森県側、今は目屋ダムの底に沈んだ砂川地区で、最後の目屋マタギ集団のリーダー「シカリ」として暮らしていた鈴木忠勝さんのお話。著者が生前の鈴木さんから聞き取った猟と山の話です。
著者の根深さんご自身が登山家であり、地元青森県弘前市のご出身とのこと。自らも白神山地を隅々まで何度も歩き、猟も経験しているということもあり、語られる山の話にはとにかくリアリティがあります。頭の中で、山の様子が目に浮かぶようでした。
ここのところは「狩猟」がマイブームなので、猟の話が目的で読み始めましたが、狩そのものの話ばかりでなく、狩を行うための文化、山の自然の話、山の暮らし、そして白神山地の話…など、どれも興味をひくものばかりでありました。でもやはり醍醐味はクマ狩り。1つ1つのクマ狩りの細かい様子が語られます。なにより語っているご本人の様子が楽しそうでした。たくさん思い出があるのでしょうね。
その猟場であった白神山地。地図であらためて確認すると、かなりの広範囲ではあるのですが、その山を隅々まで歩き回り、なおかつ知り尽くしていることに、あらためて驚かされました。
本当に山の生活を愛していた鈴木忠勝さん。近くの畑に行くような軽快さで、山に入っていく様子は、まさに自分の庭といったところでしょう。その昔がたりの中に、江戸時代に東北の紀行文を書いた菅江真澄(名前ではなく、不思議な旅人として伝承で伝わっていたそうです)まで出てくることにも驚きました。
その反面、白神山地が世界自然遺産に指定された後は、地域が鳥獣保護区となり、狩猟が禁じられ、狩小屋も違法建築として撤去されるなど、本来のマタギの伝承もそれと共に消えてしまったようです。
山の暮らしの文化を守れ…というのも、今の消費文化の時代では難しいことですし、だれもが便利な生活を求めているのも事実。ただ、狩猟という文化については、もっと若い人も挑戦してみても良いのではないかなと思うこともあります。ゲームしているよりも、多力は使うけれど面白そう。私ももっと若くて体力があったらやってみたかった!
以前読んだこちらは、食文化からの目線でまた違った面白さがありました。
田中康弘「マタギ 矛盾なき労働と食文化」 - now and then
今回の本の著者、根深誠さんの別のマタギ本も、いずれ読んでみなくてはと思っています。
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