瀬尾夏美「二重のまち/交代地のうた」:地面の下のまちのこと。

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瀬尾夏美さんの「二重のまち/交代地のうた」を読みました。(でもごめんなさい、実は瀬尾夏美さんの「あわいゆくころ」は読んでいないのです。)

そして、こちらの映画も現在全国各地で公開中です。(仙台が怖くて観に行けませんが…。)

映画『二重のまち/交代地のうたを編む』公式サイト|小森はるか+瀬尾夏美 監督作


この映画の中で朗読されるお話が「二重のまち」。陸前高田でかさ上げされた土地にくらす人びとの2031年(未来ですね)の物語。映画ではこれを小森はるかさんが映像化したそうです。作家かと思いきやアーティストでもある瀬尾さん。「二重のまち」では、物語ともに、タイトルに合わせた瀬尾さんのイラストも添えられています。

一方、「交代地のうた」は瀬尾さんたちが陸前高田で開催していたワークショップで聴いた話をもとに書かれたものです。震災の時に子どもだった人たちへの聞き書きです。

「他者の語りを聞き、伝え、語り直す」というのが瀬尾さんのテーマ。どちらも、震災からの復興後に高田の人たちから聞いた話がベースになっているわけですが、マスコミが取りあげる表面的なニュースだけではわからない、地元の方たちの今の気持ちをの一端が語られます。

本の中でも、震災による喪失感に続いて、第二の喪失、復興による喪失という言い方がでてきます。

何メートルも元の土地をかさ上げして、新しいまちを造る復興事業。直接震災にあったり、実家が流されたわけではない私でさえも、子どもの頃から慣れ親しんだまちが消失し、その上にどんどん土が盛られ、立派な道路ができて、以前とは違う場所になっていくことに、どうも釈然としません。新しくなってうれしいな…とはなぜか思えない。どの復興事業もやもや感が…。いったい誰のために造ってんだよーと叫びたくなる。

地面の下にかつてのまちが横たわっている「二重のまち」…これは実感です。自分の家があった場所ももうわからなくなってしまった話もよく聞きます。私自身も、ここは○○があったところ…と思いながら歩くことも多いです。

そういった複雑な気持ちがあるということを、何らかのかたちで残しておくべきですね。

宮城県内を中心に民話採訪をされている小野和子さんが寄稿されていますが、瀬尾さんの「他者の語りを聞き、伝え、語り直す」という行為は、考えてみると震災後の民話採訪でもあるのではないでしょうか。

風景は写真で記録できるけれど、人の気持ちは語ってもらわないと伝わらないし、記録しておかないと消えてしまいます。その「気持ち」も年月を経て変わって行きますし、まずはその時その時をとにかく記録していくことが大切なのだ…とあらためて感じました。

小野和子さんのこちらの本もとても良いですよ

小野和子「あいたくて ききたくて 旅にでる」地元宮城弁の臨場感。 - now and then

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