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特別に好きな女優というわけではなかったのですが、この自伝を出したというニュースを昨秋に聞いて、なぜか無性に「岡田茉莉子」が気になってきました。個人的には、お父様である岡田時彦のこと、小津安二郎を始めとする松竹の大監督との仕事などに興味があったからです。実は映画もあまり観たことは無く、小津安二郎の「秋日和」での明るい印象と、大ヒットした「人間の証明」での華やかな印象が思い出される程度。最近はサスペンスドラマに出てくる「大女優」という認識程度でしたが、今さらながらこの本を読んで印象が全く変わってしまいました。
なんといってもご主人となる吉田喜重監督と出会ったことが、同世代の他の映画女優とは違った女優人生を歩むきっかけとなったのではないでしょうか。映画全盛時代の最後の時期を、多くの名監督のもと、東宝そして松竹で「映画女優」として歩んできた...というその軌跡が、映画の歴史でもあります。女優としての行動も、吉田監督と出会う前のお若い頃から、ただの美人女優とは違う、芯の通った凄みのようなものが感じられます。現在のあの貫録を裏打ちするものが、なんなのか、この本を読んでわかったような気がします。(本の中で、木下恵介監督の眼光が、川端康成と匹敵するほど鋭い...という話が出てきますが、岡田茉莉子さん自身の眼光も同じぐらい鋭いです!)
そして読んでいて、最初から最後まで、なぜか重たい雰囲気に包まれます。良い話ももちろんいろいろあるのだけれど、楽しげな雰囲気があまり感じられないのです。それはどうも文体からくるものだったのですが、どうもこの文体、女性にしては少し小難しくて堅いな...と思っていたら、どうやら岡田さん自身が手書きした原稿を、吉田喜重監督がワープロで清書されたのだそうです。その時点で監督からかなり直しが入ったのでしょうから、それなら当然か...と納得しました。
岡田茉莉子さん自身が、吉田喜重監督の才能を高く評価する場面が何度も出てきますし、お二人がお互いを認めあっているという関係が、なんとも素晴らしい。そして1本も観たことのない、吉田喜重監督の岡田茉莉子映画を是非観なくては...という気持ちにさせられました。
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