マーヴィン・ゲイ物語 引き裂かれたソウル (P-Vine Books) (P‐Vine BOOKs) 吉岡正晴 ブルース・インターアクションズ 2009-05-28 by G-Tools |
私が好きなマーヴィンは、どちらかと言うと比較的初期のアルバムやデュエットアルバムの時期であり、後半のいわゆるセクシー路線のアルバム群には距離をおいていました。正直申し上げて、今回紙ジャケが発売されるまで、「離婚伝説」(Here, My Dear)や「I Want You」などのアルバムはほとんど聴いたことがありませんでした。英語の歌詞の内容がよくわからないまま、雰囲気で聞いていたりするので、まだ少しはマシですが、昼間から堂々と聞いていると恥ずかしい曲も確かにあります。
でも、この評伝を読み終えて、「I Want You」「Let's Get It on」「離婚伝説」(Here, My Dear)の3つのアルバムは、確かにちょっといやらしい雰囲気のアルバムには違いないのだけれど、今までとは違ったスタンスで聴くようになりました。それぞれのアルバムを作ったときの、マーヴィンの「心象」を想像ながらじっくり聴いております。「I Want You」などは、あらためて聴いてみると、歓喜の気持ちにあふれているように感じました。逆に最後のアルバム「ミッドナイト・ラブ」は、「セクシャル・ヒーリング」は売れたけれど、実は案外と世の中に迎合するようなものだったのかな...とも。それに比べれば、その前の3つのアルバムは、別格という気もしてきました。彼の赤裸々な私小説ということなんですよね、きっと。
マーヴィンが父親に撃たれたニュースも覚えています。当時はニュースだけ聞いて、単純にどうして?と思っていたけれど、今回はじめてその本当の理由がわかったような気がします。彼はあのとき父親に撃たれなくても、結局はなんらかの形で命を絶つことになったのではないでしょうか。とはいえ、マーヴィンの死はこの評伝の結末に過ぎず、重要なのはそれまでの過程です。それは生まれたときからの長い長い道のりだったのです。う縲怩゙。
ドラッグや暴力はけっして感心できるものではありませんが、彼の屈折した考えや行動を、私はなぜか共感を持って読み進みました。彼ほど極端でないにしろ、人間の心の底には、なにか屈折したものがあると思うのです。
成功したいという願望、愛されたい、でも誰も自分を愛してくれないのではないかという思い、ステージに上がる前の極度のプレッシャー、成功者への嫉妬、引きこもり、浪費から一文無しへ...などなど、これだけ聞くと、なんだかひどい人物としか思えないけれど、私は彼を否定することはできず、なにか複雑な思いが残りました。どうも感想をうまく表現できないのですが、自伝ではないけれど、本人や関係者へのインタビュー量も豊富であり、マーヴィン・ゲイ本人の複雑な人物像をしっかりとらえた、評判通りの名評伝だと思いました。
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