地域の自然や生態系を大切にした復興への取り組みが紹介されています。
…ですが、読み終わって印象に残るのは、公共工事とのせめぎあいでしょうか。
話の内容は、生態系への影響を全く考えない復興を憂慮する方達の、それぞれの活動報告ということになりますが、農業や漁業、観光などの産業を除外すると、復興=ほぼ公共工事です。特に工事関連は、市町村ではなく県や国が行う場合が多く、多くが地元の細かい配慮は抜きにして画一的に決定されている印象があります。
この本の最後には、防潮堤にまつわる話が2つ登場します。1つは気仙沼の大谷海岸の防潮堤。もう1つは仙台の蒲生干潟の防潮堤です。
気仙沼の大谷海岸は、震災前は多くの人々が訪れる、駅近の砂浜の海水浴場でした。ここは、観光地としての位置づけもあり、地元の要望と気仙沼市の方向性が一致したこともあり、なんとか防潮堤計画に折り合いをつけることができたようです。
しかし蒲生干潟の場合はだいぶ様相がちがいます。地元の高校生たちは、防潮堤の計画を知り、学びながら、自分たちでよりよいプランを練り、計画に反映してもらえることを願って活動するのですが、公共事業という高い壁にぶち当たり、現実をつきつけられてしまいます。守りたかったものは守れなかったという言葉がなんとも重い。でもそれは、高校生だったから…ではないと思います。
どさくさでいつのまにか決まった計画が、知らないところで進んでいて、県や国が主体となった意見を聴く機会やワークショップなども行われるのだけれど、それは「やりました」という実績をあげるだけのもので、実際に住民の意見を取り入れるものではなく、結局はおおよそ最初に決められた計画通り進んでいく…というのは、現実に身の回りでも聞く話です。ほんとうに公共工事はスタートすると止まりません。
市民の側も、当初はプランづくりに熱心に取り組んでいても、結局は何の意見も反映されず、あきらめの境地になるという、工事する側の思うつぼ。わざとでしょうこれ…と思うことも。ここであきらめずに粘り強く交渉できるかどうかが分かれ目なのでしょうが、他に生活の再建もあるわけですから、かなりのエネルギーがいります。これが三陸沿岸の上から下まで、あちこちに起きた、起きている、まだまだ続いているのでありました。
ということで、生物多様性というよりは、そんなことのほうが気になってしまいました。ある意味、生物多様性とは対局にあるのが公共工事かもしれませんね。
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