レベッカ・ウラッグ・サイクス『ネアンデルタール』(筑摩書房)
かなり前にネアンデルタール人の遺跡発掘ドキュメンタリーを読んだのですが、今やネアンデルタール研究もDNAで解析する時代。今年のノーベル生理学・医学賞は、このネアンデルタール人のゲノム解析を行ったスバンテ・ペーボ博士が受賞しました。
ノーベル生理学・医学賞 人類進化研究の第一人者へ! NHK解説委員室
ノーベル賞もあったので、これは読まないと…と実物を見ずネットで注文したわけですが、届いてびっくり、紙が薄くて600ページもあるじゃないですか。読めるのかこれ…。
原題は「親戚:ネアンデルタールの生活、愛、死、そして芸術」。このファンタジックな原題にも一抹の不安を感じながら読み始めましたが、これが思いのほか面白くて一気に読んでしまいました。読むにはそれなりに時間はかかりましたけど全く苦ではなく、逆に早く先を読みたいくらい。昔関連本を読んだときとは全く別世界になっており、遺跡もその後たくさん発見されていて隔世の感がありました。ほんとうに。
骨格からわかる身体的特徴から始まり、気候、石器、食べ物、住居、移動、美意識はあったのか、社会…そして革命的に世界が変わったゲノム解析のことまで。ニュースなどで事実は知っていましたが、ここが一番の読み所ですかねぇ。どれも本が書かれた時点の最新の研究に基づいた内容です。あとがきにもありましたが、発掘調査は一種の推理小説のようなものでもあり…ということで、小さな発見が結果をもたらしていく様子がなんとも楽しい、
各章の始めには、ネアンデルタール人の暮らしを物語風に描いた短い文が添えられているのですが、最初はなにこれ?という気持ちだったのだけれど、本を読み進めるうち、会ったこともないネアンデルタール人たちに生活が目に浮かんでくるようになり、ファンタジーの主人公のようでもあり、どんどん楽しくなってきました。
これまで、人類の歴史からはずれたところで発生し、やがて消えてしまった原人…くらいのイメージしかなかったのだけれど、自分のDNAにもネアンデルタール人のDNAがあるかもしれない…と考えるだけで、グッと身近に感じる存在になりました。ネアンデルタールの研究の歴史そのものがドラマティックというのも、面白さの大きな要因ですね。
これからも、もっとたくさんの発見・研究が進み、また新たなネアンデルタール人像が浮かび上がってくることに期待したいです。
(今年ベスト1はこれかな。)
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