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帯によります後、著者のナム・リーは、生後3ヶ月でベトナム難民となったそうですが、この短編集でのデビューで数々の賞を受賞しているのだそうです。私は翻訳小説にはとりわけ弱いので、全然知りませんでした。
7つの短編のうち、最初の1話は、著者自身とも重なる、アメリカ在住でベトナム出身の小説家を志す若者が主人公。家族のベトナム戦争体験を小説の題材として取り上げることに悩みます。
ふむふむ、こんな感じで、この最初の短編にもでてくる「エスニック・ストーリー」が展開されるのか...と思いきや、次の短編ではいきなり中南米らしきところで、ヒスパニックな登場人物が主人公となります。あれあれ、なんだか全く話が変わってしまった...
ちょっと混乱しつつ読み進むことになりました。それぞれの短編が、舞台となる国も登場人物も全く異なる話が続きます。
途中に「ヒロシマ」という短編がありました。これはおそらく広島近郊の町にすむ女の子が主人公で、原爆が投下される直前までの、できごとが綴られています。日本の戦時下の雰囲気がよく出ていて、これが日本に住んだこともない異国の著者による小説とはちょっと思いがたいほどでした。日本人としてはなんとも不思議な感覚。
そしてやはり一番強烈な印象だったのは、タイトルにもなっている最後の短編「ボート」。ベトナムから脱出したボートピープルの話なのですが、ひたすら海を漂っている状況での船上の様子が、1つ1つリアルに目に浮かんできました。読後も一番重たかったですね。
明るい感じのおはなしは1つも無し。でも何かが全編を貫いているような感じがして、非常に興味深く読めました。それは主人公や周囲の人間の描かれかたなんだろうと思います。きっと。
あらためてパラパラと読み返してみると、最初の短編の中に「コロンビアの暗殺犯とか、ヒロシマのこじとか、痔を患ったニューヨークの画家なんてものを書いている」と、お父さんに言われている場面があって、今になってちょっとニヤリとしています。やっぱり最初の1編はノンフィクションに近いのかもしれないですね。
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