著者の方は昆虫を中心に撮影している自然写真家で、わざわざ関西から山形に引っ越して、東北の自然を撮影していた方だそうです。今回は福島から青森までの太平洋側の沿岸を、何度も通って観察し、記録したものです。瓦礫を片づける人たちをがいるなかで、こんなこと(生態系の調査)をしていて良いのだろうかという葛藤の中での日々だったとのこと。正直言って私自身も、最初にこの本を手にしたとき、確かに少しのんきな印象を受けたのは確かです。そんなこともあって、他の震災本と違い、最初は気軽な気持ちで読み始めました。
しかし、読み進めるうちに、今までとは違う重い事実を突き付けられたような気持ちになってきました。東北は自然に恵まれた地域である…という印象はあるけれど、それでも震災前から干潟や湿地が減少し、多くの貴重な生物がギリギリの状態で生育していたこと。そして今回の津波でその生息地も大打撃受けていた事…。家屋の流出・海水による浸水・地盤沈下・そしてただでさえ減っていた干潟や湿地・砂浜の消失。その事実は当然わかってはいたけれど、その被害の大きさは、これまではほとんど思い至りませんでした。
この方が、トンボを中心に調査していたこともありますが、宮城県内でも、貴重なトンボの生息地がたくさんあったことに驚き、そしてその多くが大打撃を受けてしまったこと…。個人的にはかなりショックでした。
本来であれば少しずつ海岸線が再生していくはずのですが、元々あった防波堤や人工物、すでに始まっている護岸工事や整地によって、自然に任せて元に戻す事もできず、かろうじで残された生態系も失われていくという、人間の世界の被害とは違った難しさが認識できました。多少想像はしていましたけれど、以前の状況も含めてこれほどひどいのか…というところですね。自然の海岸線が残る地域というのが元々ほとんど無くなっていたこと、そして今後はこれまで以上に多くの防波堤があちこちに作られ、砂浜の無いコンクリートで固められた海岸線が増える事を考えると、暗澹たる気持ちになっております。一律にそうしなくってもいいんじゃないのかなぁ。
どこかの大学の先生が提唱して、細野大臣までパフォーマンスしていた瓦礫で防波堤を作って木を植える活動についてもチラリとでてきました。「森づくり」と称しても、砂浜や湿地を埋め立てることは論外と切り捨てています。私も、見た目が緑であるというだけで、人工物である事には変わりないので、環境省のやることなのかなと疑問に思っていました。
ただ著者も言っているように、この震災復興の状況において、自然保護などと声高に主張する事ははばかられてしまうことも事実です。土木と自然保護とは相いれないものだとか。当然のことながら現時点では人間の生活が優先されます。個人的には、部分的にでも本来の海岸線に戻していくような試みもあっても良いのではないかとずっと思い続けているのですが、そのような取り組みはあまり聞きませんね…。
ほとんどの人があまり気にしていないかもしれないけれど、人間が生きていく上ではあまり必要ないかもしれないけれど、でも実は大きな事ではないかと思います。湿地って迷惑なところと思われがちだけれど、やっぱり大切なんですよ。…と、なんだかとりとめなくなってきましたが、理系の新書「ブルーバックス」らしい視点の良い内容でした。特に昆虫・トンボ系の方は是非。
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