ロビン・ウォール・キマラー「コケの自然誌」

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タイトルにもう少し文学的ひねりがあれば、もっと違う売れ方をするのではないかと思うのですが、自然科学的な読み物でもあり、文学的でもあり、ナチュラリスト的なという意味でレイチェル・カーソン的な印象もあるけれど、また違った不思議な読後感でありました。

著者は、アメリカでコケを研究する大学の先生。タイトル通りコケの生態学的基礎知識を交えながら、コケの生態とコケにまつわる物語が語られます。

最初の章は、タイトル通り「生態学」的な説明の方が多いせいか、ちょっと退屈だったのです。胞子が発芽して原糸体になって、雌株とお雄株ができて、造卵器の中の卵細胞に精子が泳ぎ着いて、新しい胞子体から配偶体になって…なんて読んでいると、生物の本を読んでいるようなところも。

でもここを乗り越えれば、(私もこれまで全く意識していなかった)様々なコケとの出会いが待っています。著者は研究者ですから、当然のことながらコケを探しにも行くわけですが、わざわざ出向かなくても身の回りにもコケはひっそり生えています。山の中のコケから都会のコケまで、いろんなコケを紹介してもらいながら、そのコケにまつわる著者の体験を聞かせてもらっている…そんな気がしてきました。特に、著者がネイティブ・アメリカンがルーツであったりすることで、自然との関わり方にまた独特のものがあり、それが文からも伝わってきます。

読み進むうちに、コケの生態の話もだんだんと面白くなってきましたし、それに伴って、それぞれのエピソードも入り込んで行けるようになってきたという感じです。こんな自然科学の本は、なかなかないですね。なるほどこれが「ネイチャーノンフィクション」というのですか。

原題は「Gatherting Moss」ですが、コケ採集とかコケの集まりとかそんな意味なんでしょうか。「自然誌」ということにはならないと思いますが。タイトルのイメージで普通の科学モノの本のように見えてしまうのがちょっと残念です。

理系な話が苦手な方は、生態学的な記述は多少すっ飛ばして読むぐらいでもいいと思います。読了後はコケに対する「気持ち」が明らかに変わりますよ。

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このページは、raizoが2012年12月25日に書いたブログ記事です。

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