小山さんというホームレスの女性が日々のことを綴ったたくさんのノートを、ご本人が亡くなられた後に有志でワークショップを作り、書き起こして出版したものです。
なんとも独特の世界で斜め読みができず、1行1行じっくり読むことになりました。ホームレスの生活の話?いや、そう簡単に言えないのがこの小山さんのノート。日記のようにその日にあったこと、小山さんが思ったことがストレートに書かれています。
まだアパートに住んでいた頃、お金がなくなってホームレス生活がはじまります。公園のテントでの生活、食べていくための拾い歩き、一緒にテント生活をしていた男性からのDV、そしてその男性の死と悲しみ。でもそんな生活の中でも、公園で音楽にあわせて踊ったり、ラッキーな拾い物に出会って喜んだり。
そして、かつて文学を志したと思われる小山さんは、時に古本屋さんで買った本を読んだり、時に貴重な現金を使って、お気に入りの喫茶店で珈琲と音楽を楽しみながら、自分の書いたノートを読み、そしてまた新たにノートを書く、それを心の支えにしていたのでした。
私は上野で働いていたことがあり、上野公園のホームレスさん達もよくみかけました。ジメジメした上野の森の片隅のテント、テントがあればいいほうだけれど、建物の軒下で朝まで寝ている人、炊き出しの列、お金に替えるために拾った大量の空き缶を運んでいる人、秋に公園内に落ちているギンナンを集めて売っている人…。みたことのある風景がたくさんでてきました。小山さんが公園(私は上野公園に違いないと思ったので)で暮していた頃、私も近くを通っていたかもしれない。読んでいると、じめっとした上野の森が頭の中に浮かんできます。
ホームレス生活が過酷だ(女性だとなおさら)という事実だけでなく、その過酷な生活の中で、ノートと向き合うことを心の支えにして暮している小山さん。読みながら、はらはらしたり、怖くなったり、共に悲しんだり…として良いことがあるとほっとしたり。あー、もう少しお金はとっておいたほうが良いのでは?と心配にもなります。後半は文章に空想の世界も入り交じり、そうすることによって現実の世界のつらさを紛らわせていたように思えました。
そういえば、読書アンケート2023でこの本をあげていたお二人は、どちらも女性でした。フェミニズムな内容でもなく、女性の生き方本というわけでもないのだけれど、女性であるということで降りかかってくる様々なこともあったのです。その嫌な気持ち、あぁ、わかるなぁ…ということもありました。
なんかうまく言えませんが、もう亡くなられてはいるのだけれど、たくさんのノートを通して、ひとりの女性としての小山さんに出会わせてもらったような、そんな読後感でした。
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