岩波書店「世界」9月号

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岩波書店『世界』の9月号を読みました。先月の8月号「人間の復興を!暮らしの復興を!」に続き、今の私にとって読みごたえのある評論が並んでいました。特集は「放射能汚染時代」なのですが、放射能の話だったから…ということでもないのです。

「世界」という雑誌の性格上、最初から反原発的論調であることは承知の上で読み始めましたが、面白かったのは放射能以外の文章。

津波史研究者で、先日たまたま読了した佐野眞一「津波と原発」にも登場した、山下文男氏の「九死に一生の記」は、津波史の研究者でありながら、入院中の陸前高田の病院から津波を見届けようとして津波に飲まれてしまった話から始まります。とにかく命が一番大事、とにかく逃げろ…ということなんですけどね。単純明快。

おぉ!と思って読んだのが、連載ではあるけれど、建築家の隈研吾氏と伊東豊雄氏の対談。伊東豊雄氏のファンなので、震災後の伊東氏の発言には注目しておりました。あ、でも釜石の復興アドバイザーになっていたんですね。

【再生の設計図】(1)建築家、伊東豊雄さんに聞く 「ミニ東京」はいらない - MSN産経ニュース

石巻はこういうところでも出遅れるなぁ。隈研吾氏のほうは、石巻市内の北上川の土手に「北上川・運河交流館」なる施設を設計しています。私も1度くみこさんに連れていってもらいました。いかにもな箱モノ建築ではありますが、石巻の中ではちょっとした異空間だよなぁと思っておりました。

町の復興に、もっと建築家の人達も積極的に関わってもらいたいなと思ったりもしていましたので、中央の発想からくる高台移転やこれまでの都市計画手法が繰り返されるのではという危機感には共感できるものがありました。土木コンサルタントが、震災後すぐに活動を開始して、もう土地利用計画がどんどんできてしまっている話とか、見えないところで計画の準備が進み、公表時点では変更できなくなっていることもあるというような、ギョーカイらしいお話も。石巻の復興構想もきっとそんなのだろうなぁ。

今回の津波の被災地は、仙台を除けばもともと都市なんかじゃないんですから、東北らしい新しい風景を作り出さないと厳しいという話、住まいや仕事、場合によっては観光も含めた構造をデザインする必要があるという話など、なかなか興味深い話でございました。

伊東氏は、これまで手がけてきた地方自治体の建築についても、地元の方と交流しながら計画し、現地の自然や地形、周囲と溶け込むような建築デザインであったりして、そんな発想が新しい町作りにも反映されたらいいなぁ…と切に願っております。

さて、その他にも放射能特集では、NHKのETV特集で話題になった福島汚染地図の木村真三先生の「専門家としての両親をもってデータを公開しなければならない」とか、ちょっと?な部分もあるけれど、広島のお医者様である肥田舜太郎先生の「放射能との共存時代を前向きに生きる」などが印象に残りました。

今回の原発事故のこと。私個人としては、人間が科学的に放射能を除去・処分することができないという現実からすると、もっと自由に制御できる技術を確立しない限りは、脱原発もやむを得ないと思います。今のこの事故処理にも何年もかかる上、まだ放射能も漏れ続けているという状況は、やはりおかしいかなと。これだけ科学も発展しているのですから、自然エネルギーに限らず、別のエネルギー利用の方法もどんどん開発していただきたいです。

福島原発にしても、宮城県沖も地震が多いけれど、いわき沖も結構多くて怖いよな…とずっと思っていたので、やっぱりという気持ちもあります。20km圏内には誰もいないような荒野に建てるのだったらいいかもしれませんが、日本はちょっと狭すぎます。比較的広いと思っていた福島でさえもあのような状況です。

原発も、地元にとっては大きな産業であり、収入源ではありますが、それも転換点に来たのは確かです。日本人も、放射能が出るから陸前高田の薪を大文字で燃やすな(五山送り火:陸前高田のまき拒否 京都市に抗議殺到 - 毎日jp(毎日新聞))、なんて意見が出てくるぐらいのレベルですから、この放射能パニックはとうぶん収まらないでしょう。放射能も困るけど、実は放射能への過度な反応の方に違和感を覚える毎日であります。

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このページは、raizoが2011年8月 8日に書いたブログ記事です。

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