」を読み、思いの外ピクサーの話が面白かったので、やっと読み始めることにしました。もちろんピクサー社の誕生からのお話ですが、この本は日本では2009年に刊行されていて、ディスニーがピクサーを買収後、「レミーの美味しいレストラン」を公開した頃までの話です。
そもそもの始まりは、CGの研究者としてスタートしたキャットムルが中心になって作った、コンピュータ・グラフィックスの研究所でした。元々はハードウェアの会社だったという言い方をされることが多いピクサーですが、ハードウェアの会社として力を入れていたのは、ジョブズ氏に買収された前後の話で、確かにピクサーとして名前がついたばかりの頃ではありますが、それまでの間も、根本にはコンピュータ・グラフィックスの技術開発という芯が通っていたようです。
やがてルーカスフィルムの一部門として映画用の特殊効果を研究することを建前としながら、ディズニーをクビになった失意のアニメーター、ジョン・ラセターを雇い入れ、なんだかんだと言ってコンピュータ・アニメーションを作ります。でも、アニメに興味の無かったルーカス。離婚の慰謝料を支払うためという有名な理由でルーカスフィルムの整理をすることになり、様々な売却先を探っていた中で、アップルを追放されて失意の中にいたスティーブ・ジョブズが、そのCG部門を買い取ることになります。
ジョブズ氏は、NeXT同様にハードウェアをどんどん売るつもりでスタートさせましたが、結局ハードウェアはほとんど売れず。よくもまあジョブズが我慢してお金を出し続けたものです。それもまた、ジョブズ氏のアップル時代の資産があったからこそ。結果的にピクサー社はアップル社由来の資金で維持されていたようなものですね。
ジョブズ氏の負けん気から、なんとかピクサー社を成功させようと、個人の資産で赤字を埋めてきましたが、そろそろ我慢の限界がやってきて、売り先を探し始めた頃に、ラセター率いるアニメーション部門が評価されはじめます。そこはこの手のことに鼻が利くジョブズ氏。ここから彼の手腕が発揮されていきます。そして本書でも、ジョブズ氏の行動を表す言葉として「現実歪曲空間」という単語が何度も出てきます。アップル同様、これに馴染めなかった社員もいた模様です。
ピクサーとディズニーとの関係は、ジョブズ本でも面白かったけれど、少し角度の違うアニメ業界からみた視点になっていて、また一味違います。ピクサーのそれぞれの映画製作のエピソードと共に、ピクサー社の歴史が刻まれていく訳ですが、この本の半分ぐらいに渡ってジョブズ氏がからんでいて、違った角度から見たジョブズ本として楽しめます。やっぱりクライマックスはディズニーとの最後の対決ですかね。
もちろんルーカスの映画も、ディズニーの(昔の)映画も、もちろんピクサーの映画とそのCG技術にも、そしてジョブズ氏にもラセター氏にも、ラセター氏が尊敬する宮崎駿氏にも敬意を払っておりますので、そういったいろいろな意味で、私にとっては最初から最後まで興味深く読むことができました。なんだかんだ言っても、天才アニメーター、ラセター氏よりも、ジョブズ氏が目立ってしまうピクサー社史でした。
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