被災、石巻五十日。: 霞ヶ関官僚による現地レポート 皆川治 国書刊行会 2011-12-11 by G-Tools |
河北新報 東北のニュース/官僚が見た災禍の石巻 市役所内部の50日記録
年末の帰省時に、前日に刊行されたばかりの高成田さんの新刊「さかな記者が見た大震災 石巻讃歌」を買おうと、東京駅の駅ナカの書店には並んでおらず、新幹線で仙台に着いて、エスパル(駅ビル)の中にある、Books みやぎで見つけたのですが、さすが地元(?)仙台、震災関連本が充実していて、東京ではあまりみかけない本もありました。その中で、ちょっとお役所の方々の実際の動きも知りたいなと思って買ってみたのがこの本です。
手に取って、安住財務大臣の顔が帯びに入っており、かえって印象が良くないのではと思ったりもしましたが、問題は中身ですからね。「国家的非常時における地域行政の課題」というサブタイトル通り、たまたま震災発生時に石巻市内に居合わせ、その後五十日間にわたって、農水省のキャリア公務員として現地に残り、石巻市役所に常駐して担当の農政以外の分野を越えて、震災対応に奔走する事になったのがこの筆者の皆川氏。地元の国会議員安住淳財務大臣が帯文を書いているのは、安住議員の地元情報源のような役割も果たしていたからのようです。そんな方が石巻で活躍(?)していらっしゃったなんて、この本を手にするまで全く知りませんでした。
実際にご自身が避難した避難所の運営から始まって、農水系の事務所の非常時の対応から市役所内の混迷ぶりまで、50日間の毎日の様子がレポートされています。霞が関との橋渡し的な官僚的お仕事はまあ当たり前として、この未曾有の非常時において、大混乱する市役所内の様子が地元行政への食い込みっぷりが強烈だなというのが第一印象でした。運営上のトラブルから、避難所の門脇中学校に出入り禁止になってしまったりするところをみると、地元の人たちからみるとかなり異星人に見えていたのかもしれませんね。でもさすがキャリア公務員。中央とのパイプはしっかりしていて、国との関係については良くわかりました。
毎日のレポートの中身についても、ごもっともということも多く(個人的には離れた観光地のホテルや旅館に避難する二次避難の政策は、それほど良いプランとは思えませんでしたが…)、これぐらいの問題意識を本体は石巻市長が持つべき(持っていらっしゃったのかもしれませんが)とも思うほど。しかし市長さんにしても、あまりにも問題山積(そしてお客様が多すぎて?)で何が何やらそれどころではなかったのかもしれませんが…。その大混乱ぶりを誰かが記録しておかないと今後にも生かせませんから、こういった視点のレポートも必要なのかなとも思いました。
国・宮城県・石巻市の連携の悪さ、進まない市役所内での議論、食料支援のちぐはく…ためいきの出るような話ばかり。話し合いが持たれても結論がなかなか出ない様子は目に浮かぶようでした。とにかくあっちもこっちも問題点山積みです。特に県とのズレが最悪ですね。これが現状で劇的に改善されているとはあまり思えないのですが、この本が出版されたことにより、反省して良い方向に進んでいる事を祈るのみです。しかも、仕方がありませんが、どうしても話の中身が旧市内の範囲でしか語られておらず、合併前の周辺の旧町にまで手が回っていないのも想像がつき、そこがまた石巻市における大きな問題として残されているようにも思います。
収穫だったのは、知りたいと思っていた石巻の復興計画の素案である「新都市構想」の出所が分かったこと。4月28日に「市建設部で密かに案を練っていたらしいのだが、関係部はもちろん市復興対策室にも十分協議はしていなかったそうだ。」「住民の意見を全く聴取していない今のd難解で、安易に石巻の土地利用を地図に落としたものを示す事は次期尚早と考える。」とあります。やっぱり役所内で誰かが線引きしたものが、最終的な復興計画の基礎になっていて、その基本がほとんど変わらないまま決定してしまったという訳ですね。うむむ。非公開の場で密かに案を練ったのは分かったけれど、どの程度の専門家が関与してできたものなのかはわからずじまいではあります。
読み終わって、石巻市民が読んだら気を悪くするのではないかと心配になりました。この本、石巻の書店でも平積みなのでしょうか…。これからどうなるのか、本当にしっかり復興の舵取りをしてもらえるのか…。昨夜のNHKスペシャルは、石巻の雇用の問題を取り上げていましたが、地元では明るい未来がなかなか開けてこない中、ちょっと不安を感じさせる1冊ではありました。こんな読後感、震災本としては珍しい。やはりこれは中央の人が読む本かもしれません。なかなかこんなお役所目線のレポートは読めませんから、著者の皆川氏のおっしゃるとおり、まさに教訓として残してください。
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