四方田 犬彦「李香蘭と原節子」

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今日もiPadの話を期待していた方々には申し訳ありません。iPadで盛り上がっていた合間に読んで、思っていた以上に読みごたえがあった映画・女優論がこちら。女優論は好きで、良く読むのです。昨年「原節子 あるがままに生きて (朝日文庫)」も読んだばかりでしたが、切り口が全く違いました…。

本の前半では、原と山口(=李香蘭)の話を交互に1章ずつ取り上げて、両女優の比較論的なことになっているのですが、後半はほとんど山口淑子論になっていました。女優としては原節子が好きですが、山口淑子の場合は、女優としてではなく人物としての凄さをつくづく感じることになりました。

私はさすがに「李香蘭」とう名前でノスタルジーを感じる程ではありませんし、女優というイメージも実はあまりありません。私の中では「3時のあなたで司会をしていた派手なおばさま」(これを知っている時点でかなり私も古い世代ですが…)というイメージ。ただしそれは、同時期に別の曜日に司会をしていた吉村真理、高峰美枝子らとは違い、子供心にも見た目の派手さとは違い、ちょっと恐いぐらいの硬派な印象がありました。この本によると、番組でパレスチナに取材に行ったりと、昼の時間帯としては異例のドキュメンタリー特集もやっていたのだそうですね。そう、当時から政治的な印象はあったのです。

その後、参議院議員として3期を務め、自民党の中でどこの派閥にも属さなかったものの、アジア外交や従軍慰安婦問題、環境、動物愛護…などなど、各方面で精力的に活動し、ミャンマーやパレスチナにも人脈があるという、最近のタレント議員とは一線を画す活躍をされてきました。

山口淑子の自伝「李香蘭 私の半生」も、単行本刊行当時にすぐ読んだのですが、その時もかなり強い印象を受けましたが、それは彼女の人生の前半である李香蘭時代と戦後の話までの部分。当時はその戦中戦後の時代の流れの中にいた山口淑子という人物に衝撃を受けて、李香蘭の歌のCDまで買いましたし、今回の本の中にもあるように、この本が出た後には、TVやミュージカルへ取り上げられるなど、李香蘭ブームがまきおこりました。そのブームの中でも嫌な顔1つせず、クールに振る舞っていた山口さんの姿も印象的でした。

そんなことはまあ良いのです。歌手、女優(中国・日本・米国…ブロードウェーのミュージカル、そしてエド・サリバンショーへの出演まで!)、イサムノグチの妻のあとに外交官の妻、政治家…それぞれの場面で、自分で努力して学ぶ姿に感服いたしました。やっぱり目力が違うんですよね、こういう方は。凄い女性です。あんまり凄くて、直前まで立て続けに読んでいた(今ブームとなりつつある)高峰秀子の話が完全にすっ飛びました。

ついつい山口淑子の話に偏ってしまいましたが、この本全体としても「日本の女優」としての2人を論じていて、今そう呼べる女優はいなくなってしまった…とも。日本人が総じて小粒になってしまっているのかもしれないですねぇ。戦前縲恊甯繧ノかけて、戦争・ナショナリズム・日本という国と、映画というメディアの関係を論じるものとしても面白かったです。

さてこのお二人、御年91歳(そろそろ92歳?)とのこと。原節子さんのほうは、もう何十年も隠遁生活をしていて、最近は話題にものぼらなくなっていますが、そろって長寿というところもスゴイ。このお2人の神格化は、戦後67年にして、まだまだ進行中なのでした。(さあて、李香蘭のCDを引っぱり出すかな…)
 

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このページは、raizoが2012年3月19日に書いたブログ記事です。

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