宇都宮浄人『鉄道復権: 自動車社会からの「大逆流」』を読んでいろいろ考えた。

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最近やたら気になる鉄道本。なぜかいつも幸福書房で買ってしまうことが多いのですが、「世界鉄道史---血と鉄と金の世界変革」も気になったのだけれど、かなりの重量感(中身も)があったのでこちらだけ購入。

「鉄道を見直す世界 見捨てる日本」という帯のフレーズに、読む前からちょっと煽られます。

まずは日本の鉄道を代表する山手線の話からスタートしますが、このあたりはサラリと進み、すぐに世界の特にEUの鉄道事情・現状の話に突入。EU圏で鉄道が復権してきた経緯、現代の路面電車LRT網の発展、そして欧米そして日本の地方都市における鉄道の再生という話が続きます。

やはり大きなポイントは「上下分離方式 - Wikipedia」と自動車社会との棲み分けでしょうか。

ヨーロッパのモータリゼーションは、日本よりも一足先に一つの区切りを迎えていて、郊外の大型店への流出や、市内中心部の渋滞など、今日本で起きているようなことが先に問題となっていたそうです。その解決策として、市内への車の流入を減らし、公共交通機関を発達させるという流れになってきたというわけです。これは大きなポイントではないかと思いました。

私もつらつらと考えるに、商店街の活性化と称して街の中心に立派な道路を作る(そんな話も聞きますので…)のは、あまり得策とはいえないような気がします。車両通行上便利になるだけで、素通りされてしまうだけではないかと思うのです。大きな駐車場を作れば済むというものではないと思います。

街に車で来ていただいても良いのですが、「商店街」は回遊(買いまわり)してこそ街として成り立つわけで、ゆっくり安全に歩けないといかんのですよ。○オンなどの大型ショッピングモールは、その大きな店舗内だけで回遊性を実現しています。高齢者や子連れにも優しいバリアフリーを考えると、車道脇の歩道のような段差は無いほうが良い。

本当の意味での「アーケード街」は、基本的に日中は車両を通さないことで、利用客がゆっくり歩いて買いものができます。私の知っている人の集まる商店街は、どこでも街中を車がバンバン走っていたりしません。仙台だってそうです。(しかし車が通らなければ繁盛するというわけでもありませんが…)

そして富山ライトレール株式会社のポートラムという路面電車網。どこにでも真似できるものではないけれど、まだ発展途上でもありますが、長期的な視点でコンパクトシティを目指した街づくりと公共交通整備がなされていることには、ただただ感心するばかりです。LRTの整備をきっかけに+のスパイラルが働いているように思えます。

今、地方路線は採算ばかりが重視され、朝夕の通学時間以外では、利用者の利便性を考えているとはあまり思えないダイヤが組まれています。もう少し便利だったもっと乗るのに…ということもしばしば。富山はそういう面でも、ダイヤを充実させたり、接続を良くしたりと、利用しやすい環境を整える戦略が、さらに利用客を増やしています。

三陸地方のJR路線の行く末がいまなお不透明な昨今、イケイケドンドンなエキナカ事業など、さらなる利益追求を求めるJR各社に、地方路線におけるさらなる利用者サービス向上を求めるのはもう無理なのです。地元勤務の社員は別として、本社のエライ人たちはそんな気はさらさらないのではないかと。

こうなったらJRは地方路線においては「下」に徹してもらい、「上」の部分をやる気のある事業者に任せたほうが良いのでは?という気持ちにもなってきました。とりあえずバス…ということになっている気仙沼線だって、三陸鉄道になったほうがいいかもしれないと思ったりもします。

今思うと、国鉄を民営化する時が、上下分離方式のよいチャンスだったかもしれないですねぇ。線路を国有財産にしたままで、まずはJR各社に線路を使わせ、徐々に他の事業者にも開放していく…とか。

…という具合に、読みながらイロイロと考えさせられた1冊でした。うん、面白かったです。果たして日本の鉄道(特に地方路線)はこれからどんな方向に進んでいくのか。静かな鉄道ブームでもある今、日本の鉄道について考えなおすチャンスかもしれません。

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このページは、raizoが2012年6月18日に書いたブログ記事です。

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