鷲谷いづみ「震災後の自然とどうつきあうか」

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岩波書店の広告でこのシリーズの出版案内を見た時から期待していた本。鷲谷先生は東大の保全生態学研究室の先生ですが、保全生態学そのものがマイナーな学問ですが、生物多様性という言葉と共に少しずつ浸透しつつある学問といったところでしょうか。

本書は、土木工事による堅固な構築物による対策に頼るばかりではいけないという提案なのであります。

環境保全というと、自然保護運動をしている人たちが思い浮かびますが、保全生態学というものは、現状の生態系を分析し、本来の生態系を取り戻すための方策を探る学問ということのようですね。

私は鷲谷先生のお名前は知っていたけれど、著書は今回初めて読みました。あくまで研究者という立端から、落ち着いた文調で冷静に現状分析をし、「自然について深く学ぶ事」「自然の叡知を行かすこと」「自然に逆らなわないこと」を提案しています。

1990年代に欧米で目を向けられはじめた「グリーンインフラストラクチャー」(=社会インフラのグリーン化)という、生物多様性に目を向けた土地利用を紹介しながら、高度な土木技術に頼ってきたことにより、逆に自然災害に対して脆弱になっていたのではないかという警鐘から始まります。そして放射能による影響の話にもかなりページが割かれています。

自然災害というのは、人間がいるからこそ災害なのであって、生態系からみると「大規模撹乱」であり、自然の営みの一部分であるという事。本来河川の氾濫原や河口域の干潟・砂浜は撹乱を受けやすい土地であり、かつては人は住まない場所であったのに、土木構築物で守られることで、人間が住み始めたのでした。まさにその通り…。

かつてはその自然の撹乱により、河川が氾濫することによって土地が肥沃になり、人間もそれを利用して田んぼを作っていたわけです。ある意味自然をうまく利用していた時代でもあったのかなぁ。

名取の海岸線の自然がすでに再生しはじめている報告もありました。海~砂浜~砂丘+松林~後背湿地という日本の海岸線は、日本全国で激減しており、貴重な海岸線を再生するチャンスでもあるのです。名取は仙台近郊で、人口も増えている地域ではないかと思いますが、仙台湾を代表する自然を残していくことも積極的に取り組んでもらいたいです。

実際石巻でも驚くような規模の地盤沈下も起こり、人口の構築物がなければ、旧北上川の河口は河口が広がり、河口の裾野が広がって、砂浜も消失するのではなく後退するだけのはずです。日和山からみた荒涼としたとした眺めは、悲惨なイメージで表現されることが多いのですが、たった60年程前までは、そこはまさに砂浜~砂丘~後背湿地帯でした。まさに大規模な撹乱という力で元に戻ってしまったわけですね。

再び居住区となる地域であれば堤防も必要だと思いますが、居住禁止となる地域については、無理に無駄な土木作業をせず、本書で言う社会を自然から守るための「グリーンインフラストラクチャー」の利用…という考え方も是非とも取り入れてもらいたいと思います。(最近話題の緑の堤防はダメですよ。あれは結局コンクリートではないというだけです。)

先日読んだ「巨大津波は生態系をどう変えたか」の話も出てきました。貴重なヒヌマイトトンボの生息地が消失してしまい、北上川の葦原の一部に(30mほどの狭い範囲だそうです…)かろうじて残っていた話。でもこれから北上川は長大な堤防が築かれることになっています。ある程度自由に動く氾濫域があるからこそ葦原が発達します。生息地の一部だけを保護しても、その地点が壊滅的被害を受けると絶滅してしまうという厳しい状況は、復興土木工事が追い打ちをかけてしまうのではと心配です。

三陸の沿岸部には復興国立公園化構想もでていますが、北上川はヒヌマイトトンボの郷を作るぐらいの気持ちで河川整備をしてもらいたいなぁ…というのが「むし」好きの妄想でした。

いろいろと思考があちこち飛んでまとめることができませんでしたが、ネイチャー指向な方は当然として、逆にそのような視点を全く持ち合わせていなかった人にこそ読んでいただきたいなと思いました。私の中では久しぶりに5つ星でございます。

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このページは、raizoが2012年6月23日に書いたブログ記事です。

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