書籍『更地の向こう側―解散する集落「宿」の記憶地図』…トポフィリアってなんだ?

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朝日新聞の書評欄の片隅の記者の欄で取り上げられていて、とても気になったのでさっそく読みました。B5横長のソフトカバーの本ですが、舞台である宿浦の緑の風景の絵がとても印象的な表紙です。

その印象的な緑の風景は、実は夏の更地の風景。裏表紙には高台の仮設住宅も描かれています。この宿浦は、更地になってしまった地域が「災害危険区域」に指定され、元の場所には住めなくなったために「解散する集落」という副題がついていたようです。

著者名には「東北学院大学トポフィリアプロジェクト」とあります。トポフォリア???Wikipediaで調べてみますと…

「人と、場所(トポス)または環境との間の情緒的な結びつき」、「人々が持つ場所(トポス)への愛着」といった意味合いを持たせ、トポフィリアとした。

わかったようなわからないような…。でも本を読み進めているうちに、それがどういうことなのかなんとなく分かってきます。

「更地」ですから、津波で更地になってしまった地区の全体地図が最初に、そして昭和40年〜50年頃の記憶地図、そして更にその前の昭和30年頃の記憶地図がカラーでまず扉見開きで登場します。

そして内容は、更地になる前の宿浦の生活を、宿浦の人たちからの聞き取りを元に、記憶を復元・保存していこうとする記録です。

一見、漁村の民俗学的な聞き取り調査のようにも思えるけれど、楽しかった思い出話がたくさん出てくるので、読んでいる側も思いのほか楽しい。読んでいて次々と目の前に宿浦の日々の暮らしぶりが浮かんできます。イラストがほのぼのしたペン画であるところもいいですね。

一番にぎやかだった頃の集落の中心の商店の話の中では、商店街ではないのだけれど、いろいろなお店が並ぶ様子が紹介されていましたが、宿浦では複合店(?)があたりまえで、ガラス屋さんで本も売っていた…という話にびっくり。このところは海の暮らしについて読む機会多かったので、海にまつわる話も興味深く読ませていただきました。

特に面白かったのは、子供の遊びのところですね。特に海での遊びがとても楽しそうでした。これは、震災で無くなったモノというよりは、時代の流れで失われていったもの。以前と変わりなく過ごしていたら、記録されることもなかったかもしれません。これは日本のどこにでも起きていることではありますね。

そして宿浦集落の大半の地域は、もう再建されること無く失われてしまいます。聞き取りの段階で、以前の話をするのは辛いとおっしゃる方もたくさんいらしたようですが、こうやって集落の記憶が残されること、大変貴重な機会ではなかったかと思います。聞き取りをされたプロジェクトの方々、ご苦労さまでした。

私も震災以降は、子供の頃のことをよく思い出すようになりました。確かにそれは、場所にまつわる記憶が多いのです。「人々が持つ場所への愛着」が、そうさせるのかもしれません。そして更地の向こう側に記憶があること…私も目の前の更地を見るたびに実感していたことでした。

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このページは、raizoが2013年8月16日に書いたブログ記事です。

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