数カ月前に、同じ島尾伸三さんの「小高へ」を読みました。こちらは島尾敏雄の出身地である、福島県の小高(現・南相馬市)を中心に、島尾敏雄の足跡をたどりつつ、家族への様々な思い(良くも悪くもですが…)を綴ったもの。「小高へ」の読後も、なんだか暗い気持ちになり、この感じは島尾系著書に共通するものがあるなと、妙に感心してしまった覚えがあります。
この「小岩へ」は、4〜6歳の伸三さんが体験した当時の小岩の様子、時代を語りつつ、当時の島尾家のくらし、子どもたちの日常が綴られています。比率的にはノスタルジーな話も多いので、「小高へ」ほどモヤモヤしたものは残りませんが、母・ミホさんが精神的変調が始まる時期でもあり、小学生にあがる前の時期でありながら、いろんなことを覚えていることに驚きましたし、それだけ家族の中の緊張感がすでに大きく影響していたのだろうと思われ、この一家の複雑さをあらためて痛感します。
「爽やかな読後感なんて微塵もあるはずがありません」と伸三さんご本人があとがきで語る通りの内容で、ご両親へ不満を述べていることについてわびていらっしゃいますが、それでもこうやってなかばやじ馬的な意識も働かせつつ読んでいる私のような読者も多いはずで、私小説(あまり読まないのですが…)というのも不思議なジャンルだなと思いました。
文章は淡々とした平易な文章なのですが、それでもなんだかやっぱり怖いです。何かがにじみでるのでしょうね。うん。
「狂うひと」読後の感想はこちら
梯久美子「狂うひと ──「死の棘」の妻・島尾ミホ」 - now and then
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