吉田篤弘「おるもすと」:本の力に気づく。

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これまでほとんど読んだことのない吉田篤弘さんの本。吉田さんの小説が好きだという話を人から聞いたり、夏葉社さんの本で先日初めて読んだりで、たまたまこれも図書館で見かけて手にとったのでした。


実を言うと、あまり期待せずに読み始めたのですが、独特な静かな雰囲気の短編小説も良かったのですが、それ以上に後半のエッセイが面白かったですねぇ。

もともとこの本は、世田谷文学館から活版印刷の本として限定で発売されたものを、後日談的なエッセイを加えて改めて出版し直したのだそうです。元になった活版印刷の本については、新しく書き下ろしされたエッセイに詳しいのですが、活字から作ったとのことで、何しろクラフトエヴィング商會の仕事ですから、どんな蔵本だったのかいつか手にとって見てみたいですねぇ。

そしてその活版印刷の本には、わざわざ吉田さんが選んだ、日本製紙石巻工場で作られた東日本大震災復興支援商品「モンテシオン」という紙が使われていたのだそうです。ここで石巻が出て来ようとは不意打ちでした。

そんな打ち明け話や後日談が「つづき」として入っておりまして、さらにその中に思わず心にグッとくる言葉が。まるまる引用させていただくと…

ぜひ、買いに来てほしかった。本は選ぶことも買うことも体の動きをともなうことで記憶にのこる。その時の体感を本が記憶してくれるのかもしれない。たとえば、長いあいだ読まずにいた本を棚の奥からひさしぶりに引き出したとき、その本を買ったときの、雨あがりのまちの匂いや人の声までもよみがえる。本にはきっとそうした力がある。

元本は、通信販売は一切しなかったのだそうです。「本は選ぶことも買うことも体の動きをともなうことで記憶にのこる」というフレーズに、そうそう、そうなんですよ…と言う気持ちで一杯になりました。

不思議なもので、自分で本屋さんで買った本というのは、買ったときのことを意外とよく覚えているのです。確かに手に取ると思い出します。そして紙の本はそんな様々な記憶と一緒に本棚に並んでいるからいいんですよねぇ。

「雨あがりのまちの匂い」というフレーズでは、代々木上原の幸福書房さんのことを思い出しました。お店に入った後にすごい大雨に降られ、店長さんに雨が止むまでゆっくりしていって下さいと声をかけられつつ、店内独り占めで本を眺めながら雨宿りさせてもらったことを思い出し、ちょっとジーンとしてしまいました。

そのとき何の本を買ったのか覚えていない(絶対買ったと思います)のだけれど、何かないかと探しながら棚の本を眺めていることそのものが楽しい記憶として残っているわけですね。

読み終わって、本の力を信じる吉田さんの思いが伝わってきて、何だか嬉しくもなりました。

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このページは、raizoが2018年10月16日に書いたブログ記事です。

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