戸塚 洋二 著・立花 隆 編「がんと闘った科学者の記録」

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 戸塚 洋二著・立花 隆編「がんと闘った科学者の記録」
昨年7月に亡くなられた戸塚洋二先生。昨年は戸塚先生の「科学入門」を読んでいたく感激しましたので、こちらも読んでみました。この本は、もともとは戸塚先生の個人ブログだったものを、立花隆が抜粋して編集したものです。

元になったブログはこちら
The Fourth Three-Months
昨年読んだ「科学入門」のこと
now and then: 戸塚教授の「科学入門」 E=mc2 は美しい!

先日、NHKでもこの戸塚先生とこのブログに関する特集番組が放映され、反響も大きかったようです。NHKで放送される前に買っていたのですが、読んでいる最中にNHKの放送も見る...といった状況になりました。

内容としては、巻頭の立花氏による序文、巻末の立花隆との対談を除くと、元となったブログからの原稿ですが、私は活字派なので、活字になっているのであれば...と、あえて活字でゆっくり読ませていただきました。

多くのブログエントリーの中から抜粋されたのは、自分のガン治療の記録、ニュースについて感じたこと、無神論者ではあるけれど就航について、今までの研究のこと、人生について、死について、奥様が手入れを去れている自宅のお庭の花の紹介、かつて飛騨の山々の木々を観察しながら歩いた時のこと...などなどが出てきます。

私も尊敬している大場秀章先生(植物学)も出てきましたし、雑草の名前がわからなくてもどかしくなったりする様子などに妙に共感しました。

ガンに関する情報の少なさについても何度も書かれています。今はネットでいろいろと調べる時代(最近は病気について調べると、中途半端な情報の広告チックなサイトが多いように思いますが...)ですが、きちんとした機関が系統的にデータが集めてくれれば、治療だけでなく早期発見や予防にも役立つはずです。戸塚先生のご意見が、(先生曰く)閉鎖的な医療の現場にも届くといいですね。

この本(というかブログ)についての評で多いのは、自分のガンの分析を科学者らしく冷静に分析している姿に驚く...というものがあります。独自の方法で数値やグラフ化しているところは、さすが科学者(いわば性分?)と思いましたが、冷静に分析しているように見えるけれど、それは不安と表裏一体のものだったのではないでしょうか。主治医に説明を受けただけでは消化不良、自分で分析し、あらためて病状の進行を自分の目で確認したい、そういうことなのだと思います。

ブログという場で、その不安を書き連ねることはしなかっただけで、病気のことを忘れて過ごすことなどなかなか難しいはずです。自分の病気のこと、自分の体の中で起きていることをもっと知りたい。それは科学者でなくても同じ思いを持っている方は多いはずです。

そして、大好きな研究と大きなプロジェクトを前に、闘病のために仕事に自ら終止符を打ったことに対する未練が、それとなく感じられ、その無念さが読んでいて伝わってきました。そんな中でも、少しでも役に立って貢献したいという姿勢にも感服いたしました。

そうそう、私の好きな正岡子規の言葉も引用されていました。
「悟りといふ事は如何なる場合にも平気で死ぬる事かと思つて居たのは間違ひで、悟りといふことは如何なる場合にも平気で生きて居る事であつた」(病床六尺)

確かに正岡子規も、かなり悲惨な病状でありながら、小さな楽しみをみつけながら暮らし、最後まで前向きに生きていました。誰もができることではないけれど、私もそうありたいと思います。

そして読了後...結局活字にならなかった話も読んでみたくなりましたので、ブログの方も今さらながら毎日少しずつ読んでおります。

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このページは、raizoが2009年7月24日に書いたブログ記事です。

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