稲泉連「復興の書店」には石巻の話がたくさんありました。

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週刊ポストで不定期に連載されていたものを大幅に加筆した本です。連載中は、金港堂石巻店やヤマト屋書店が取り上げられた時には読んでいました。

三陸から福島にかけての沿岸の書店のお話で、北は岩手県の山田町、南は福島県のいわき市までのいくつかの書店のエピソードが並んでいます。どうやってお店を再開したのか、みんながどんな本を待っていたのか、そして今後への思い…。

第一章のタイトル「本は生活必需品だった」という一文が、とにかくこの本の言わんとするところなのだと思います。何もすることもできない避難所で読む本、カレンダー、お礼状を書くための例文集、地図、写真集、地元の本…などなど。活字に飢えている人たち、本屋さんを待っている人たちがこれだけいたことに気付かされるという体験も、この非常時にこそのものでしょう。お店を開けて良かったという店主さん達の声が心にしみます。

あのあといったいどうなったのだろうと気になっていた、「ほんの森いいたて」の話もありました。元のようにまた戻れるといいですね…なんて簡単には言えない状況ではありますが、なんとか良いかたちで解決策が見つかるといいなと心から思っています。

街の本屋さんばかりでなく、大手の本屋さんの話も出てきます。仙台の丸善が早々に再開したのは、神戸出身だったジュンク堂工藤社長の阪神淡路大震災の時の体験からきたものだったとのことで納得です。

飯館のことはこのときに…
新雑誌「ケトル」僕らが本屋に行く理由 - now and then

たくさんの本屋さんが出てくるのだけれど、どうしても私の中では石巻比率が高く感じられました。金港堂石巻店、ヤマト屋書店、コラムで日本製紙石巻工場、そして名前こそ出されていませんでしたが、第1章では門脇のささき書店さんのことだと思われる話がでてきました。

それは取次店である中央社の担当が、震災後の4月に被災地域の取引先書店を回る話の中ででてきました。お父さん(私がよく買っていた時のおじさん)を背負って逃げたこと、避難所で書店の再建は無理だと話していたという部分です。

門脇に移転する前は実家のすぐ近くにあった本屋さんでしたし、なんだかんだ行っても日常的に一番行った本屋さんでしたので、この本に登場したことに少し驚きました。駅方面の商店街と違い、門脇にたくさんあったお店のことについては、味平ラーメンさん以外は取り上げられることがほどんどありませんでしたが、うちの近所ではみんなそうしたお店にお世話になっていましたし、ちらっとしか出てこないのですが、この部分が妙に印象づけられてしまいました。

ささき書店さんのことはこのときに書いてます。
本屋さんと私。 - now and then

この本の中にも、いつも読んでいた雑誌を待っている子ども達の話も何度もでてきますし、有名になった回しよみされた少年ジャンプの話などもありますが、そういう気持ちもなんだかわかりますねぇ。私も一刻も早く読みたくてささき書店さんに行きましたから。

それから、トーハンとヤマト屋書店が企画した移動本屋さんの話で、石巻ではかつて本屋さんがたくさんあった立町商店街が会場となったわけですが、「石巻では前述のように市街地にあった書店が失われたため」とありました。この商店街には震災前からすでに書店はなく、商店街からは離れたところにあったささき書店さんのことはあまり関係なかったんじゃないのかなとは思いましたけど。ま、細かい話ですが。

金港堂石巻店のところでは、かつての立町商店街のお店の話も出てきます。「わずか50坪の小さな店」という表現でしたが、それでも市内の他の店に比べると一番大きく、本の数も多かったので、私にはとても広く感じられました。懐かしいです。(そして仙台の一番町にあった丸善に行くと、「広大だなぁ」というイメージでした。)

日本製紙の工場の話もありました。先日、本送り隊のたんじさんが、出版に係わる人たちにとっては、日本製紙の工場被災も大きなことだったと話されているのをお聞きして、身近なところで出版にも関係あったんだなぁ…と思い直しています。

日本製紙といっても、子供の頃は十條製紙なので、私の中ではまだジュウジョウなんですが、工場こそ外側の壁しか見えなくて入ったことも無いのだけれど、3交代(これも古い!)のサイレンの音、煙突と煙、チップの山、貨物列車、たくさんの社宅、友達…いろいろ思い出もあります。そんな日本製紙も比較的早い段階で操業を再開。その復興ぶりは、さすが大企業だと思いました。他の地域からの応援や、社員や社宅への支援など、他とはレベルが全然違っていましたから。中小企業にはなかなかまねができませんが、地元の関連会社もありますし、撤退ということにならずに本当に良かったです。

そんなこんなで、全体としての話も良かったのですが、思わぬところで石巻ノスタルジーを感じされられた1冊になりました。

でも基本は本屋さんのお話です。amazonや電子書籍があればいいよっていう若い人もいますが、立ち読みしてみるとつまんない本もあるじゃないですか。まだまだ街の本屋さんの存在もばかにできないですよ。ということで本屋さん大好きの方は是非!

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このページは、raizoが2012年8月15日に書いたブログ記事です。

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